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冬のホッとドライブイベント

清水和夫

インストラクター 安藤 純

去る1月26日と27日の両日で高速道路会社として民営化されたNEXCO東日本主催の「雪道体験ドライブレッスン」がスキー客で賑わう長野スキーガーデン「パラダ」特設会場で行われた。冬は高速道路のスリップ事故が夏の4倍にもなり、ノーマルタイヤでの事故が目立っている。

さて、佐久平PAに直結されたパラダ・スキー場へは、関東方面からも多くのマイカースキーヤーが訪れる。この佐久平では高速道路のパーキングから直接スキー場に行くことがでるし、スマートICと呼ばれるETC専用ゲートを利用すると、隣接のスキー場にも足を伸ばせる。この便利さから家族ずれの関東在住の利用者が多い。

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しかし、その気軽さが仇となるケースも少なくない。というのは都心からノーマルタイヤで訪れるお客さんも少なくないからだ。「チェーンがあればいい」という気軽な発想だ。しかし、実際はウインタードライブにはスタッドレスと呼ばれる雪上性能に優れたタイヤを履くことが望まれるが、都心のユーザーはタイヤに対する認識が浅いのが現実だ。そこで、雪道の安全運転のために「安全に危険を体験してもらう」イベントが行われた。

パラダ・北スキー場の駐車場に、1周約200メートルの特設コースを造り、実際の雪道と同じ環境を用意した。ここでスタッドレスとノーマルタイヤを装着した最新のフォルクスワーゲンTouran1.4リッターTSIを、実際に運転することで安全に危険を体験してもらう。急ブレーキや急ハンドルの際の性能の違いを体験できるほか、雪道のコンディションの判断の仕方や運転のアドバイスなどをしてくれる。

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冬にノーマルタイヤで何度も危険な思いをしたことがあり、イベントに参加するためにわざわざ千葉からきた女性の参加者もいた。多くの参加者はタイヤの性能の違いだけでなく、雪道を安全に走行するための重要な知識が得られたと感想を述べている。

今回は、インストラクターの立場から、雪道走行の重要なポイントをまとめてみた。

・ スキー場なのにスタッドレスタイヤ未体験という参加者が意外と多い。
・ チェーンとスタッドレスタイヤの違いを知らない人が多い。
・ チェーンの方がアイスバーンは安心~という錯覚を持っていた。
・ チェーンは緊急脱出用で、ウインタードライブにスタッドレスは欠かせないことをPRする必要がある。
・ スタッドレスタイヤを履けば、<必ず止まる>と思いこんでいる人が多い。
・ スタッドレスタイヤは夏タイヤに比べ、雪上の加速能力も向上している。速度が上がった分、制動距離も伸びるのだが、何故<夏タイヤより止まらない?>と不思議に思い質問するドライバーも多くいた。

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・ 実際にハンドルを握ってもらうと、短時間でも貴重な経験ができる体験型イベントの効果は大きい。
・ スキーをしに来たが、ゲレンデの直ぐ脇で、手軽に楽しくキチンと学べるところが良かった。
・ スキー場に限らず、スノー・ドライビングレッスンを展開出来ると良いと思うといった意見も多かった。
ウインタードライブにはタイヤを換える必要があるが、チェーンで気軽に対応するユーザーの多いことには驚いた。北海道や東北地域ではスタッドレスタイヤが普及しているが、関東地区のユーザーはタイヤに対する考えが遅れているのであった。

JAF春の車内温度テストについて

清水和夫

 JAFユーザーテストの一環で行われた「春の車内温度テスト」は車内に取り残される子供のリスクを明らかにするものである。ところで、昨年のデータでは子供が虐待で死亡したのは56名。あらためて最近の親の非常識が明らかになってきている。しかし、この数字の実態はもっと多いのではないだろうか。子供の安全について社会が厳しくみつめるアメリカでは、チャイルドシートを装着しない親、ヘルメットをかぶらせないで自転車に乗せる親、熱い車内に子供を放置する親。こうした親は幼児虐待の対象となり、ソーシャルワーカーが親から子供を隔離することが法律で定められている。つまり、子供は社会が守っているのである。

 今回JAFが行ったテストは、犯罪の意識がなくても、子供が車内で放置された時にいかにリスクが高いかを実証するものだ。ここに掲げるテスト結果は2007年4月26日埼玉県戸田市道満グリーンパークで行ったデータである。

====テスト結果====

1)日の出AM04:56~日の入りPM18:23
  日照時間 13時間27分
  南中高度 67.5度(南中とは太陽が真南にきたことを意味する)
  南中時刻 11:39

2)天気概況
  テスト当日は、14:09ごろから急速に曇り始め14:24ごろから降雨に見舞われた。14:48ごろに雨は上がり、日照が出始めたが、結果に大きな影響を与えた可能性が高いと思われる。

3)グラフは、南向きにおいた1800ccクラスのミニバンにおける車内温度と外気温の推移。参考として、湿度の記録もグラフ化している。

<最高温度>
車内温度    14:09 48.7℃
ダッシュボード 11:59 70.8℃
外気温      13:37 23.3℃
*車内温度が40℃を超えた時刻         AM09:51
*ダッシュボードの温度が40℃を超えた時刻 AM07:44
*正午過ぎにダッシュボードと車内温度が下がったのは、日差しが一時的に弱くなったと推測できる。

4)参考までに南向きにおいたコンパクトカーのドアの窓4枚を全て4cm程度空けておいた場合の温度推移はどうなるのだろうか。窓を少し開けることで、温度が大幅に下がることが分かった。

<最高温度>
車内温度    14:04 38.9℃
ダッシュボード 11:52 58.2℃
外気温      13:37 23.3℃
*車内温度が30℃を超えた時刻          AM09:09
*ダッシュボードの温度が30℃を超えた時刻 AM07:12
                       40℃を超えた時刻 AM08:01

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====考察====

実際に車内に取り残されて熱中症になる子供は、真夏よりも5月が多い。真夏は親も気にするが、5月は風が冷たいので、まさか平気だろうと油断するのである。しかし、実際にテストすると、外気温の二倍以上に室内の温度が上昇することが分かった。これでは長時間車内に放置された子供が危険な状況となってしまう。多くの親は、そよ風が冷たく感じる時期でも車内の温度は急上昇することを知ってほしい。

「JNCAP自動車安全情報公開」

清水和夫

平成18年度の自動車アセスメント(JNCAP)の試験結果が公開された。ここでは軽自動車に注目し、詳しく見てみることにしよう。総合評価では運転席と助手席が六段階で評価され、どのクルマも5~6星を獲得している。これだけを見ると差が分からない。しかし、軽自動車の特性上、キャビンの変形が気になるので運転席側のフルラップとオフセットの成績をもう少し詳しく見てみよう。

オフセットテストは運転席側に大きな荷重が加わるので、助手席の成績が良くなる。フルラップは左右平等の荷重が加わるが、運転席側はステアリングホイールやブレーキペダルなど、乗員への加害性が気になる。つまり、運転席を中心に評価してもいいだろう。

そこで私の判断では優秀な軽自動車は、運転席のオフセットで5星を取ったホンダのゼスト。頑強なキャビンが生存空間を保ったと評価できる。フルラップもレベル4を獲得している。次ぎに評価できるのは、オフセットとフルラップともにレベル4を獲得している「スズキセルボ」、「ダイハツムーブ」、「スバルステラ」。以上の四車は極めて高い安全性を有していると理解できる。

その反面、ミニキャブ構造の三菱・日産のクリッパーはオフセットがレベル2、フルラップがレベル1と低い成績であった。運転席がボディ前端部に近いところに位置するので、衝突安全は厳しい結果となってしまった。しかし、一般的なワゴンタイプのボディを持つ三菱・日産のオッティは、他車と比べてオフセットの成績が悪くレベル2にとどまっていることも気になる。オフセットに充分対応したボディ骨格とは言えないだろう。

さらに詳しいデータを見ると下肢の損傷も評価できる。下肢は死亡には直結しにくい傷害であるが、本人の負担は大きく治癒に時間がかかる怪我を被る。極端にダミーのある部位の損傷が大きい場合は、拘束装置の問題か、キャビンの変形が大きかったと推測できる。しかし、この領域の評価は専門的な知識が必要なので、ユーザーは意識する必要はないだろう。側面衝突はすべての軽自動車がレベル5と好成績であった。軽自動車は車高が少し高いために、ダミー人形のポジションが高いから、側面衝突テストには有利だ。しかもホイールベースが短いので、サイドシルの剛性は結構高い。
 
このように限られたテストではあるが、そのクルマの大まかな安全性を知る手がかりになる。JNCAPを自動車購入の有効な情報として利用してほしい。しかし、あなたが本当に安全な自動車を手に入れたければ、衝突安全性能だけではなく、予防安全に目を向けるべきだろう。欧州のユーロNCAPでは、今年の5月からESC(横滑り防止装置)が装備されていないと、総合評価で最高点がとれなくなる。それほど有効なESCを、軽自動車に早く普及することが、今後の大きな課題であろう。

軽自動車の安全性

清水和夫

一般的に軽自動車は「ぶつかると危険」という印象を我々は持っている。様々な自動車が走る混在交通の中では、軽自動車はもっとも小さく実際の事故では不利かもしれない。自分よりも大きな自動車とぶつかると、被害は大きい。というのは自動車同士の衝突では大きな自動車から小さな自動車に衝突エネルギーが伝えられるからだ。これは物理の基本なのでどうしようもない。そのために実際の事故では重量やボディの硬さや形状の違いによって、お互いにシートベルトをしていても乗員の被害は公平にはならない。

90年代に情報公開と安全基準が始まったものの、日本の国民車として長い間多くの人に親しまれてきた軽自動車が決定的に不利になることが明らかであった。サイズが規定されていたおかげで、エネルギーを十分吸収できず、キャビンの生存空間の確保が難しかった。これでは実際の事故で国民車が不公平になってしまう。そこで日本政府は1998年に軽自動車の規格を全面的に変更し、衝突安全性能を乗用車と同じレベルに向上させる努力をメーカーに促したのだ。それまで国内安全法規では軽自動車は衝突速度を低くすることで基準を満たしていたが、新規格では軽自動車のボディサイズを大きくすることで、乗用車と同じ土俵で勝負することができるようになった。

ところで90年代に登場した自動車安全情報公開(JNCAP)では、いったいどんなテストが行われているのか、簡単に説明してみよう。まず衝突時の乗員の安全性を評価するために三つの衝突形態をテストしている。前面衝突はフルラップ法とオフセット法。さらに側面衝突テストが行われている。この三つのテストはそれぞれ独自の意味を持っているので、バランス良く高得点を得ることが重要だ。
 
まずフルラップ前面衝突テストはどんなテストなのだろうか。実際のテストではコンクリートのバリアに正面から直角にぶつけている。例えば、机から飛び降りたとき、両足で着地した時の衝撃を計ることと同じ理屈だ。このフルラップ法は、一瞬にして衝突が終わるので、大きな衝撃が乗員に加わる。そのためシートベルトやエアバッグなどの拘束装置の性能を評価するのに適している。日本の法規は、アメリカと同じくこのフルラップ法が採用されているが、JNCAPでは速度を安全基準の50Km/hよりも10%高い速度の55Km/hでテストが行われている。

もう一つのオフセット前面衝突。コンクリートの前に変形可能(相手の車を見立てたもの)なバリアを起き、そこに運転席側から40%オフセットさせてぶつける手法だ。この手法は欧州の法規として採用されたもので、実際の自動車同士の事故を想定している。フルラップと比較すると衝撃は小さいものの、キャビンの変形が大きいので生存空間を評価するのに適している。速度は64Km/h。特に軽自動車は、キャビンが小さいのでぶつかった時の生存空間の確保が難しい。そのために軽自動車ユーザーは、このオフセットテストの結果を注意して見ることが重要だろう。

この二つの前面衝突テストは、同じ程度の重量と形状の自動車同士がぶつかった場合、テスト結果が有効となるが、重さの違う事故ではテスト結果は参考程度となる。ここに衝突実験の限界がある。同じ自動車とぶつかれば、という条件を考慮すると軽自動車の場合難しいだろう。多くの軽自動車は、自分よりも大きな自動車とぶつかるケースが多いからだ。それでは、JNCAPの結果が参考にならないのではないだろうか。

安全はただではない

清水和夫

エキスポランドで起きたジェットコースターの悲惨な事故。あるいは記憶から薄れようとしているエレベーター事故。現代社会には様々なリスクが存在するが、悲惨な事故が起きるたびに被害者も関係者も「二度とこのようなことが起きないように、、、」とコメントする。しかし、我々はこうした事故からいったい何を学んでいるのだろうかと疑問を感じることがある。自動車はどうか。

戦後、日本は自動車の普及とともに自動車事故が急増し、70年代初めには年間死者数が16000人を超えたことがあった。その後10年の間で、年間死者数を約8千人まで減少することができた。このとき事故発生件数と死傷者数ともに減少していたので「70年代の奇跡」と言われている。80年代以降再び事故は増え始めた。経済が豊かになり、自動車が便利な乗り物になるほど事故は増えていった。90年代に入ると年間の死者数がついに12000人に増え、交通事故が再びクローズアップされるようになった。そこで政府は90年代に衝突安全法を制定し、同時に安全情報を公開するようになった。いわゆる独立行政法人自動車事故対策機構が行うJNCAPは、ユーザーに安全情報を提供することと、メーカーに正しい方向に安全技術を促進させることが大きな目的となっていた。

この事業のおかげで、近年の日本車は飛躍的に安全性(衝突時の乗員保護性能)が向上したことは間違いない。こうした技術は海外でも高く評価され、日本車の競争力を高めている。「どんなに安全な技術を開発しても、どの努力も報われないと続かない」当時の安全担当エンジニアは述べている。したがって安全基準と情報公開は一対となって効果を現すわけだ。実はこうした取り組みはアメリカの制度から学んだものであった。
一方、事故から真実を学ぶためにミクロ・マクロ的な事故分析も必要だ。国内では(財)交通事故総合分析センターを開設し本格的な分析が始まった。こうした取り組みのおかげで、メーカーとユーザーの意識は変わり「より安全な自動車」を求める声が高まっていった。「安全はただではない」と認知されたのだ。

ITS先進国を目指すスウェーデン

清水和夫

スウェーデンのボルボ・カーズ社は子供の安全を願って世界からジャーナリストを集めて安全セミナーを開催した。スウェーデンでは行政と自動車メーカーが一体となって安全対策に取り組み「ヴィジョン・ゼロ」へ向けた様々な政策が打ち出されている。今回はセミナーを通じて、ボルボの安全技術の基本であるシートベルトに関するレポートをお送りしよう。

ボルボの自動車安全は1959年に世界で初めて三点式シートベルトを考案したところから出発している。ここにボルボの安全哲学の原点があるわけだが、現在はイエテボリにある安全センターで先進的な技術を研究開発している。ボルボの安全技術は、すべて実際の事故から学んでいると言われている。その意味では事故調査が何よりも重要となっている。
今回子供の交通事故にフォーカスした理由は、急速に自動車が普及している開発途上国の子供の一位の死因が自動車事故であるという国連の報告を受けたものだ。昔から子供の安全にこだわってきたボルボにとって、彼らの知見を世界に広めることが重要だと考えたのであろう。子供のベルトはチャイルドシートが受け持つが、成長過程にある子供を守ることは大人以上に苦労するとボルボは述べている。

さて、後席のシートベルトの重要性について話してくれたのはボルボ・カーズの安全担当スペシャリスト、トーマス・ブロベルグさんだ。ボルボはずいぶん前から後席のリスクを指摘してきた。後席は前席よりも安全という妄想があるが、実際の事故を観察すると、後席の乗員が前席の乗員へ加害するケースも少なくないということが明らかになっている。さらにベルトを装着していない後席の乗員は前席と同様のリスクがあると指摘している。「後席だから安全」というのは妄想だとブロベルグさんは言い切る。

そこでクルマを設計する時から、前席と後席で安全性に差がないように工夫している。どの位置に座る乗員にも公平に安全性を与えることが重要だと考えているからだ。従ってボルボのクルマには前席と後席にもプリテンショナーベルトを装備している。実際、スウェーデンのドライバーは後席の乗員がベルトを装着しないといやがるそうだ。その理由は事故が起きると、後席から加害されることを知っているからである。「後ろの人はベルトをしないと自分が危険」という認識が定着している。

実際の事故調査で明らかになった事例が国内でもあった。高速道路で起きた追突事故。クルマの前端部は大きく破壊し大きな衝撃が加わったことを物語っている。このクルマには前席に二人、後席に一人乗っていたが、ベルトを装着していたのは前席の乗員だけであった。怪我の状態を調べると、ドライバーは外傷がないが、助手席の人は頚椎挫傷と肩を打撲していた。前席には二つのエアバッグが正しく展開していたので、助手席の乗員のほうが、本来なら障害が小さいはずであったが、現実は異なっていた。実は助手席に後席の乗員が衝突の勢いでぶつかったことがあきらかになったのである。しかもベルトをしていなかった後席の乗員は腰椎を圧迫骨折していたのである。

このように例外なく後席のシートベルトは有効であり、ベルトを装着しないことで前席への加害性が生まれるという問題も持っている。後ろの人がベルトをしないなら、クルマから降りてもらうくらいの勇気をドライバーは持つことが重要だろう。

ETCの進化とこれから

清水和夫

ETC(Electronic Toll Collection System)

「たとえ屋根から雨漏りするクルマであっても、ETCさえついていれば」と思うようになった。というのは、最近登場した自動車技術の中でETCほど便利なモノはないからだ。もちろんクルマを使う人のライフスタイルによっては便利度が異なるわけだが、私はETCがないと乗りたくない、と思っている。

私の場合、仕事柄よく通う箱根方面は有料道路の関所が数多く乱立し、ETCがないと気が滅入る。朝、池尻ICから首都高速3号線を下り、東名厚木ICから小田原厚木有料道路を経由し箱根口で降り、そのまま箱根新道を経由して芦ノ湖スカイラインまで行くとしよう。はたして何カ所の料金所を通過するのだろうか。答えはなんと6ヶ所の料金所で止まることになる。車内は領収書で溢れ、その都度料金を支払うことがどれほどおっくうな行為であったのか。しかしETCは、そんな不敏から解放させてくれた。

平成19年4月19日現在、全国でETCの車載台数は約1713万台、そのうち実際に利用しているのは67.7%。首都高速に限って言えば75.3%と高い利用率となっている。カーナビVICSと同じように、短時間で普及したETCは高速道路利用を便利にしただけではなく、実は料金所の渋滞を緩和している。この二つの効果は、モビリティの移動時間を短縮し、自動車本来の価値を高めているのだ。

 それではこれから、どのようにETCが進化するのだろうか。道路管理者側の立場では、距離に応じたきめ細かい料金設定が可能。料金一律の首都高速ではETCの普及率が高まることを待って、距離に応じた料金制度に変えようと考えている。都心を横断する長距離トラックは、首都高速の端から端まで1400円で利用していたが、この料金が一気に二倍になるかもしれない。さらに、2012年頃までに完成する圏央道環状線のおかげで、都心に流入するトラックやバスが姿を消すかもしれないのだ。こうして都市部の環境汚染や渋滞・事故が減少することが期待できる。

もう一つの進化の方向は、国土交通省が今年10月から「スマートウェイの試行運用」を始める。ここで使われるのがDSRCと呼ばれる狭域通信帯の電波を道路側から発射し、渋滞などの画像情報をカーナビの画面に映し出す。文字情報から動画情報へ、まさにイビキタス社会が到来する。ここで使われるのは「次世代車載器(ITS車載器)」だ。この車載器は料金自動課金だけではなく、道路情報のギブ&テイクを可能としている。さらに駐車場やガソリンスタンド、ファーストフードでの注文や支払いなど、さまざまなサービスが可能となるようだ。つまり、いままでのETCはDSRCの機能の一部しか利用していなかったのである。

今後、ETC(有料道路料金自動車課金)はITS車載器の一部の機能となるわけだ。そして自動車ユーザーに、ITS車載器を使ったどんなサービスが可能なのか、多くの関係者を交えて議論されている。こうした実証実験はすでに行われているが、実際の利用者の声は好意的だ。「キャッシュレスの便利さを体感できた」、「駐車場の支払いは便利」、「無線通信によって、決済するので速く便利」などの評価が寄せられている。しかし、いままでのETC車載器が使えなくなることで批判が起きそうだ。高速大容量通信とセキュリティの確保など、車載器をもっと進化させる必要がある。つまり、今までのETC車載器を拡張することができないので、新しいITS車載器を買う必要があるわけだ。すでに普及した1700万台ものETC車載器が、やがて使えなくなる点に関係者は頭を悩ます。
課題は少なくないが、ITS車載器へ進化することで、自動車の利用がますます便利になることは歓迎できることだ。

スマートウェイ社会実験の始まり

清水和夫

首都高速道路の見通しが悪いカーブの先で止まっている渋滞の最後尾に遭遇し、ヒヤッとしたことはないだろうか。こうした予期せぬ出来事に現代の自動車やドライバーはほとんどが無力なのである。もし、見えない先を知ることができれば、大幅に事故を未然に防ぐことができるのである。現在日本の交通事故の死者数は年々減少しているが、その一方で事故発生件数は昨年が100万件弱と信じられない数字が示されている。一日3000件の事故は起きていることになる。

いままで衝突安全が中心に安全対策が行われてきたが、これからは事故を予防する技術や対策が重要であると、多くの関係者が考えている。しかし、事故を未然に防ぐことは実際に難しい。無秩序に膨れあがった都市交通は人もクルマも自転車も同じところを走るケースもある。このような混在交通では事故を予防することは、ドライバーの安全意識だけに頼ることは困難かもしれない。どんなに気をつけて走っていても予期せぬ出来事は日常的に起きている。実際に日本の交通事故の原因を調べると、交通事故の75%が「発見」「判断」「操作」の遅れや誤りによるものとなっている。事故を予防する技術や制度に決定的なモノが存在するのだろうか。

今回取りあげるテーマはITSの本命の一つである「スマート・ウェイ・システム」の一つの機能であるAHS(走行支援システム)だ。この取り組みは国土交通省・道路局が中心となって進められてきており、一部の地域で実証実験が始まっている。同省は2005年3に首都高速新宿線の参宮橋付近で渋滞末尾情報をVICSの電波ビーコンを使ってドライバーに提供する実験を実施していた。この場所は追突事故が多発する場所として知られており、実証実験の場所としては都合がよかったのである。

首都高速新宿線「上り車線の参宮橋付近」は見通しが悪い場所なので、カーブより300m手前にあるVICSビーコンを使って実際の渋滞画像をカーナビに映し出す仕組みだ。渋滞に近づくクルマに、事前に情報を提供するものだ。こうした実証実験の効果は絶大で、同場所の追突事故がなんと80%近くも減少したのである。モニターを実際に使ったドライバーの評判も良好であったという。

こうした事故予防システムの効果は、投資金額と実際の経済効果として評価することができる。サービス導入前の17ヶ月は実際に44件の事故が起き、事故により3.2億円の経済損失が生じていた。ところが、サービス導入後の17ヶ月では事故が7割減少し、損失額の削減効果は約1.6億円となった。このシステムの投資額は約1億円なので、投資額を上回る効果が得られている。

このようなクルマなどのカーナビに渋滞などを実際の画像で知らせるITS実験が本格化しそうだ。参宮橋の実証実験の成功が引き金となり、今回はもっと大規模な実証実験が始まる。なにを隠そう、私もこの実験に参加し、愛車に新しいITS車載器を取り付ける段取りをしている。当面は安全運転支援に使われるが、今後は幅広い分野で情報のやり取りが可能となる。このように情報通信が本格的に自動車に使われるようになると、いままで独立して普及してきたVICSやETCなどが安全運転支援まで機能を拡大する。つまり新しいアプリケーションが搭載できるオープンなプラットフォームが必要になるわけだ。

いよいよITSの具体的な姿が見えてくる。安全で便利、しかも快適なモビリティ社会の実現が期待できる。

迫る気候変動、07年デトロイトショーで何が見えたのか? 第2弾

清水和夫

環境とスポーツカーの融合が日本のお家芸!

環境に優しいだけの退屈なコンセプトカーでは自動車メーカーのエンジニア達もノイローゼになってしまうかもしれない。そんな懸念を追い払うかのように今年の日本メーカーの特徴は官能的なスポーツモデルに特化したコンセプトカーを披露していた。400馬力のハイブリットスポーツカーはトヨタからスープラの後継モデルとして展示され、今年の春には市販化される高級車のハイブリッドLS600hは、700Nmというトルクを誇り、メルセデスSクラスをターゲットとしている。

こうした官能的なハイブリットカーはライバルメーカーからも注目される。一方、トヨタブースでは環境に優しいコンセプトカーは少なく、5.5リッターのピックアップトラック・タンドラが全面に展示されていた。まるで米国自動車メーカーのブースに迷い込んでしまったようだ。だが、トヨタは環境技術を忘れたわけではない。燃料電池自動車や次世代技術では世界をリードしてる技術も少なくない。トヨタやホンダはアメリカでは好調な販売を続けており、よりプレミアム性を強調するためにデザインが大きな課題であったようだ。レクサスとアキュラは09年モデルのV10のデザインコンセプトを発表し会場の熱源となっていた。

それでは欧州メーカーはどんな技術を持ち込んだのだろうか。BMWとポルシェを除くと多くのドイツメーカーはディーゼル乗用車を全面に押し出してきている。昨年に続いてダイムラー・クライスラー社がブルーテック(Bluetec)ディーゼルを全面的にアピールしていたことはインパクトがあった。Rクラス、Gクラス、MLクラス、GLクラス、Sクラス、Eクラスにディーゼルが選べるのだ。こうした次世代ディーゼルは「BLUTEC」と呼ばれるメルセデスの切り札だ。メルセデスは大きなSUVには尿素触媒を搭載するが、乗用車にはそれ以外の触媒技術で対応する。ところでBLUETECの名前の由来はトラックの世界で考案されていた「アドブルー(AdBlue=濃度32.5%の尿素水溶液)」から来ている。アドブルーを使うと大幅に窒素酸化物(NOx)を低減することが可能だ。「アドブルー=AdBlue」と言う意味は「先進」を意味する「Advanced」と「青い空」をイメージさせる「Blue」から来ている。この「BLUETEC」はディーゼルのイメージを変えるには上手な手法だと思っていたが、ダイムラー・クライスラーはVWやアウディと「アメリカでクリーン・ディーゼルを「BLUETEC」ブランドとして使うアライアンス」を提携したのだ。06年末に開催されたLAショーではVWが「BLUETEC」ディーゼルを搭載したコンセプトカー「Tiguan」を出展し、アウディもカリフォルニア規制にも合致できる「BLUETEC」ディーゼルを2008年に発売すると発表した。BMWもドイツでは「アメリカ市場にディーゼルエンジン搭載モデルを2008年に投入する」と発表している。

08年から施行されるTiea2Bin5という大変厳しい排気ガス規制にどのメーカーのディーゼルが一番乗りするのか興味は尽きない。70年代初頭のマスキー法をホンダが一番乗りしたことをドイツ企業は悔しく思っているようであった。

迫る気候変動、07年デトロイトショーで何が見えたのか? 第1弾

清水和夫

新年に開催されるアメリカ・デトロイトショーは各メーカーの様々な思惑が錯綜していた。安全と環境はこれからの自動車の重要な土台となっていることは間違いないが、「持続可能なクルマ社会」に向けた新しい環境技術には積極的な取り組みが行われている。ところで、最近は自動車ショーにも変化が見える。例えば、毎年恒例のデトロイトショーにさきがけ、カリフォルニア州のロスアンジェルスでLAショーの人気が高まってきている。カリフォルニア州だけでも日本一国と同じ規模の 人口と自動車を抱えるだけに、日本メーカーはカリフォルニアを重視してきている。その反面、保守的な地域として知られるミシガン州デトロイトは、アメリカのビッグ3の本拠地であるだけに、大きなSUVやトラックが主流のショーであった。しかし、環境問題がクローズアップされるとデトロイトショーにもコンパクトな環境に優しい自動車が発表されるようになった。もともと環境に意識が高いカルフォルニアと対当するようになってきたのだ。

各国のエネルギー事情で自動車のパワープラントが決まる

自動車メーカーにとってこれからの世界戦略は自動車先進国(北米、欧州、日本)とBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)の発展途上国に分けることができる。これ以外の地域も存在するが、地球規模の格差社会に自動車が益々普及するようになってきたのだ。もちろん地域によって好まれる自動車のスタイルが異なるし、その国のエネルギー事情でエンジンの特性が決まるわけだ。

日本では乗用車がガソリン、商業車が軽油(ディーゼル)と決まっているが、欧州では乗用車でもガソリンと軽油の二種類の燃料が選べる。しかし、地域が変わると、例えばトウモロコシなどの植物から自動車の燃料を作る国家計画を推し進めるブラジルではバイオマス燃料が主力だ。植物からエタノールを作り、ガソリンと混ぜて利用する燃料が急速な勢いで普及している。ちなみにバイオマス燃料が地球温暖化に貢献できる理由は、カーボンフリーと呼ばれる二酸化炭素のサイクルを持っているからだ。バイオマス燃料をエンジンで燃やすと二酸化炭素が排出されるが、植物はその二酸化炭素を再び吸収するから大気に滞留しないというメリットがある。こうしたバイオマス燃料は地域性が高いので、世界の主流になるには限界があるし、行き過ぎたバイオマス燃料政策は食料問題も引き起こしかねない。スウェーデンやアメリカの自動車メーカーはE85と呼ばれるバイオマス燃料(エタノール85%をガソリンに混ぜたもの)を使うコンセプトカーを発表しているが、地域性の強い燃料であることを理解しておくべきだろう。

ところが欧州では軽油を使うディーゼル乗用車に人気が高い。そこで欧州メーカーはいままでディーゼル乗用車の人気がなかったアメリカ市場に積極的に乗りこむ構えを見せていた。ディーゼルの燃料となる軽油は、今後石油から離脱し、天然ガスやバイオマスから人工液体燃料を作る研究も欧州では進んでる。前者はGTL(Gas to Liquid)、後者をBTL(Baiomas to Liquid)と呼んでいる。BTLはバイオマスからエタノール燃料を作るプロセスとは根本的に異なり、人工的に作られた液体燃料を意味している。GTLとBTLは同じ液体燃料を異なる素材から作るわけだ。

こうしたバイオマスE85(ガソリンエンジン用)やGTLやBTL(ディーゼルエンジン用)は、お互いに重要な共通点を持っている。それは石油に頼らないと言う点が重要だ。アメリカのブッシュ政権
は「輸入石油に頼らない自動車戦略」(Freedom Car)を持っている。バイオマスE85が全米で推し進められる理由はこうしたエネルギー事情が考えられるからだ。

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