ITS 11 ブログ

NEXCO東日本 雪道体験イベント

河口まなぶ

1月20日に関越自動車道の谷川岳PA(下り)において、NEXCO東日本の雪道体験イベントが行われ、インストラクターとして参加した。

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 NEXCO東日本・新潟支社が開催したこのイベントは、一般ドライバーの方に雪道の危険性を認識してもらうことで安全運転に役立ててもらえれば、という趣旨のものだ。
 NEXCO東日本・新潟支社はこのイベントのために、谷川岳PAの一部に雪を敷き詰めて特設コースを作り上げた。そしてここで実際に雪道運転を一般ドライバーの方に体験してもらった。
 谷川岳PAといえば、日本一長い関越トンネルの直前にあるPA。トンネルを抜けると…その先はまさに雪国となる場所である。この時期は当然、スキーへと向かう方が多く立ち寄られるため、直前で雪道を体験してもらって…という即効性も併せ持ったイベントだ。
 特設コースには、スタッドレスタイヤを装着した車両と夏タイヤ(=ノーマル・タイヤ)を装着した試乗車両2台を用意し、これを両方乗ってもらうことで、まず雪道においてスタッドレスタイヤがいかに有効かを体感してもらった。コースとしては雪道からの発進および加速、そしてブレーキというセッションと、いくつかのパイロンをスラロームしていただくセッションの2つが用意された。

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 雪道で夏タイヤを体験するという機会はなかなかないため、参加された一般ドライバーの方は口々に「夏タイヤだと全然止まらないし、曲がらないですね」と言われていた。もちろん同時にスタッドレスタイヤの有効性を確認してもらいながら。
 今回はコースの走り方などを含め、インストラクラーを務めたが、試乗後に一般のドライバーの方にお伝えしたポイントは、例えスタッドレスタイヤを履いていても急な操作やスピードが出過ぎると、夏タイヤで体感した状況と同じことが起こりえる…ということ。

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 一般のドライバーの方の多くは、この先のICで降りてスキー場へと向かう。最近は整備が行き届いているため、スキー場まで一度も雪道を走ることなく到着できる場合が多いが、それでも雪道を経験しているといないとでは意識が全く異なるのも事実。
 

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そう考えると、IC直前のPAで行った今回のイベントは実に有意義なものだと感じた。一般ドライバーの方に、実際に雪道を体験してもらうことは、まさに「習うより慣れよ」の実践である。その意味でも今後はさらにこうした機会を増やして、大規模に行っても良いと思えたほどだった。

最新ITS技術 -ナイト・ビジョン4-

河口まなぶ

 ホンダのインテリジェント・ナイト・ビジョンは、夜間走行における視界をアシストするだけでなく、自車の走路にいる歩行者を検出・認知する機能が与えられている。

 この歩行者検出の機能を、車両制御と融合することは技術的には比較的容易なはずだ。最近では車車間・路車間の通信を用いて、交差点で減速を行う試みも行われている。それに加えて車両 側においても、歩行者検出+車両のブレーキ制御を行えば、さらなる事故低減が図れると思える。

 特に夜間の走行においては、視界の確保が困難になるため、例え住宅街を低速走行していてもヒヤリ/ハットを感じる場合がままある。そんな時に走路の遥か先にいる歩行者を、人間が認知するよりも先に認知してブレーキ制御を行えば、ドライバーにとっても歩行者にとっても安心できる環境が手に入るのではないかと思える。

 もちろんこれは、既に市販車の一部で展開されている追突軽減ブレーキ機能において、どこまで自動ブレーキをかけるか? という問題と同じ悩みを抱えているのも事実である。

 が、ナイト・ビジョンが歩行者を検出するという特性を考えれば追突軽減ブレーキ機能以上の、自動ブレーキ制御を導入しても良いと思えるのだが…。

 もっともこの辺りの機能に関しては、当然のように各メーカーで研究がなされているはずである。さらにどこまで自動化するか…という問題に対して、自動車メーカーは完全停止までを確実に行える技術力を持っているのは明らか。後はそれを認可する側の問題でもある。

 ただ自動車におけるある程度の「自動化」を考えた時、そこにはドライバーの操作をどこまで優先するか、または運転に付帯する自己責任をどこまで追求するかなど、悩ましい問題がいくつもある。そうした問題を考えると、一様に自動化を推し進めることもまた問題をはらんでいく。そう考えると、技術の進化と同時に、この辺りをしっかりと定めることもまた求められると思える。

最新ITS技術 -ナイト・ビジョン3-

河口まなぶ

 ホンダのインテリジェント・ナイト・ビジョンにおける歩行者検出アルゴリズムのユニークな点は、 「歩行者以外を検出」するロジックを用いて精度を高めている点である。つまり歩行者以外のモノを識別する精度を高めることで、巷に存在する様々なものの中から歩行者を検出し、浮かび上がらせるのである。

エンジニアいわく、「歩行者以外のものを歩行者だと誤認識しても問題はあまりないですが、逆に歩行者を歩行者以外のものだと誤認識してしまうのは予防安全システムとして大問題なわけです。そこからこのロジックを発想したのです」

 赤外線は熱を持つものを白く映し出す。しかしリアルワールドでは実に多くのものが映し出される。例えば前方を走る自動車のタイヤ、ブレーキ・ランプ、路肩にある自動販売機…様々なものが白く映し出される。それらをいかに歩行者ではないか、と判断するかがポイントであり、この精度を高めることが重要だと分かったのだという。

 こうしてエンジニアらは日本中を走り回って、道路環境にあって赤外線に映し出される「歩行者以外の白いもの」をひとつずつつぶしていった。

 そして歩行者以外を検出するロジックを高め、これを歩行者を検出するロジックにかけあわせ、さらに画像処理の識別ロジックを用いて歩行者検出アルゴリズムを完成させたのである。

 赤外線の映像で一番はっきりと見える人間の身体の部分は頭である。ホンダではこれをしっかりと認識できるようなアルゴリズムを作り上げた。

 とはいえ走行する車両の前方にいる歩行者の頭は、距離によって小さな円形でもあれば比較的大きな円形でもある。例えばそれは前車のブレーキ・ランプと間違いやすい。こうした誤認識をふせぐために、このアルゴリズムでは円形を検出すると、それに対して肩のシルエットがあるか否かを検出することで、歩行者か否かを判断するのである。

 しかしこれもやっかいで、例えば円形のブレーキ・ランプを備えた車両ではフェンダー部分などを肩と認識する可能性も持っている。こうした場合の誤認識を防ぐために、先の「歩行者以外を検出」するロジックの精度を高めたのだと言う。

 頭と肩の形状を探しにいくだけのロジックの場合、歩行者がとる様々な姿勢パターンに対して照合しなければならないが、これでは長い時間がかかって認識までに相当の時間を要する。例えばダイムラーなどは映し出されたものに対して何万枚の歩行者データを照合する方式を研究しているが、これも長い時間を要してしまう。

 そこでホンダでは映し出されたものに、歩行者のデータを当てはめて歩行者を探すのではなく、間違いなく歩行者以外というパターンをどんどん捨てるロジックを用いて、その上で歩行者検出へのパターンを当てはめていくことで検出率を挙げているのである。

最新ITS技術 –ナイト・ビジョン2-

河口まなぶ

 実はインテリジェント・ナイトビジョンに用いられる赤外線カメラは、遠赤外線タイプと呼ばれるもので、他社の多くが用いる近赤外線タイプとは異なる。

 遠赤外線タイプのカメラは対象物の熱源を感知して画像化するが、近赤外線タイプはカメラから赤外線を照射して対象物の反射を受けて画像化する。このため対象物が遠くなるほど見えにくくなるという。

 しかし歩行者を検出・認知するためにはより遠くにある対象物も判断しなければならないため、ホンダはあえてコストの高い遠赤外線タイプのカメラを選び、これを2つ取り付けるステレオ方式とした。ステレオ方式とすることで、より遠くの対象物との距離を、より正確に把握するためである。

 こうして得ることのできる画像を、レジェンドではヘッドアップ・ディスプレイに映し出している。ナビ画面に映し出したりする方式ではなく、ヘッドアップ・ディスプレイを選んだ理由は、実際の運転時の視界とのギャップを埋めるため。例え歩行者を検出・認知できても、それを音や警告表示だけ表現しても、運転中のドライバーができるのはせいぜいアクセルを戻すことくらい。ならば実際の視界に近い状況を視線移動が少なくて済む位置に映し出して動画として表示することで、ドライバーがどんな操作をしたら良いのかまで教えようという狙いがある。

 ホンダのエンジニアいわく、「現状をドライバーに伝えることこそが最短の認知。だからこそインターフェイスにこだわった」とのこと。続けて「いくら優れた技術を用いても、それをドライバーに伝えられなければ意味がない」

 そんな想いから、ヘッドアップ・ディスプレイに動画を映し出し、それが歩行者である場合には画面上で歩行者に赤枠を付けて警告音とともにドライバーへ伝えるシステムとしたのだった。

 さて、赤外線カメラによって歩行者を検出・認知する…と言葉にするのは簡単だが、実はこの部分こそがインテリジェント・ナイトビジョンでキモとなるテクノロジーである。

 歩行者を検出するアルゴリズムは、もちろんホンダだけでなく学会などでも発表されている技術。ただそれらは40-50mという比較的短い距離の中にいる歩行者を検出する技術である。しかしホンダの歩行者検出アルゴリズムは、100mという長い距離の中から歩行者を検出するという。しかも面白いのはそのアルゴリズムが、いわゆる学会等で発表されているものとは逆の発想で作られていることである。

最新ITS技術 –ナイト・ビジョン1-

河口まなぶ

 最近の高級車では、夜間の視界確保をアシストしてくれる「ナイト・ヴィジョン」とか「ナイト・ ビュー・アシスト」と呼ばれる装置を搭載したクルマが登場しはじめている。

 これらのシステムは車両前方に取り付けた赤外線カメラによって、夜間の視界を確保する仕組みを持つ。例えば街灯のない道路でも、このシステムを使えばヘッドランプの光が届かない遥か彼方にある障害物を映し出すことができる。夜間走行を考えると、実に有効なシステム。実際に僕も何度か試しているが、本当に驚くぐらいいろいろなものがよく見える。真っ暗な山道で使ったこともあるが、このシステムを使うとキの一本一本まで見えるほどなのだ。

 ただしこのシステムはまだコスト的にも高いため、本当に一部のクルマにしか用いられていない。 代表的な車種で言うと、メルセデス・ベンツのSクラスやホンダ・レジェンドなどの高級車で、これらにオプションとして設定されている程度だ。

 だが今後のITSを考えたとき、このシステムはかなり有効になると思える側面を持っている。特にホンダ・レジェンドに搭載されている「インテリジェント・ナイトビジョン」は、現時点では最も優れたシステムで、今後のITSへの貢献が期待できるものとなっている。

 赤外線カメラを使って人の目には見えにくいものまでを鮮明に映し出す…という点では各社横並びなのだが、ホンダのインテリジェント・ナイトビジョンはさらにその先の機能を持っており、赤外線カメラを使って夜間の道を鮮明に映し出すだけではなく、そこにいる歩行者を検出・認知するという機能が与えられているのである。ここが他のものよりも優れた点である。

 ホンダがこの技術を世に発表したのはトヨタやGMの後だったが、実は同じように赤外線カメラで鮮明な画像を映し出す技術は、トヨタやGMと同じようなタイミングで完成させていた。しかしホンダのエンジニアはこんな風に考えたという。
「単に画像を映し出すのではなく、そこにある危険を知らせなければこの技術を使う価値がないし、商品性もない」

 そうした想いから研究を重ね、レジェンドに搭載したインテリジェント・ナイトビジョンが開発され たのだという。

日本の高速道路の不思議

河口まなぶ

 東名高速の集中工事が行われていることもあって、最近は良く渋滞にハマっている。ま、渋滞自体は仕方ないことだと思っているが、気になるのは渋滞終了後のクルマの流れだ。
 3車線から2車線、時には1車線になって渋滞が起こり、工事区間が終わるとまた3車線になって、しばらく走るとまた2車線…こうした状況では、工事区間と工事区間の間にある通常区間で、極めて不思議な現象が起こる。先日もある区間で、追い越し車線と走行車線に絞られて渋滞した後に通常の3車線になったわけだが、流れは一向に速まらない。どうしたことかと前方をみると、多くのクルマが追い越し車線から車線を変更せず、そのまま流れがキープされているのだ。
 もしや…と思って一番左の走行車線を見ると案の定ガラガラ。しかも真ん中の走行車線も結構空いていて、つまり追い越し車線と走行車線の関係が逆になっているわけだ。
 またどうせ工事で車線が絞られるだろうから…とか、車線変更するのが面倒くさいとかみんな思うのだろうか、そのまま追い越し車線を走るクルマが続く。もちろんしばらくすると追い越し車線も少しずつ流れ始めるが、それでも前車が全くいないのに100km/h巡航をきっちり行っているクルマも多い。
 渋滞を超えて、我先に目的地へ。という思いがあるのも分かるが、現状では「それなら一番左が速そうですけど」となっている(笑)。もっともこれは工事区間での渋滞終了後だけでなく、日曜日にも良く見られる光景だが。
 ただこうした感覚が少しでも変わると、現状の高速道路はもっと走りやすくなることも確か。そう考えるとITS以前の問題って結構山積み…に思えるのだ。

僕のACCの使い方

河口まなぶ

既に西村さんのエントリーでACC(アダプティブクルーズコントロール)のことが詳しく書かれているが、僕は今回自分がどのようにしてACCを使っているかを書く。
 清水さんのエントリーにも記されるように、ACCは素晴らしい装備である一方、現状の国産車の設定速度では問題も多い。トヨタで115km/h、日産で110km/hという設定速度では追い越し車線を走れないのが実状。
 設定速度の上限となる110-115km/hの速度は、高速の追い越し車線の実状からするとやや下の速度となる上に、ACCによって設定できる前車との車間距離確保は極めて安全なマージンを持つため、人間が運転している時の車間距離よりも長めにならざるをえない。だから実際にACCを使うと、どんどん自車の前に割り込まれていくのが実際。
 だから僕はACCを使う時は、前車との車間距離設定を一番短く設定して、車速は実際の流れよりもやや上、追い越し車線ではマックスに設定する。そうして交通の流れに合わせてアクセル操作を行う。つまりACCをオンにしたまま普通に運転するのだ。ACCをオンにしていても、クルマはドライバーの操作を優先するため、設定速度以上の速度で走ることができるわけだ。ACCに頼るのではなく、ACCをアシスト的な機能として使う。
 それではACCの意味がない…というのはもちろんなのだが、安全を考えた時の保険としてみれば効果は大きい。こうして流れに乗ってACCを使いつつアクセルを穏やかに踏んでいれば、自車の前にどんどん割り込まれていくというはない。なおかつACCオンのまま自身で運転しているため、流れが急に鈍くなった時には自身の判断でアクセルを緩めるわけだが、この時にACCによる車間距離確保のための減速効果が得られる。ACCでもともと設定した車間よりも短い車間であるため、アクセルから足を離すと即座に減速が始まる。これは自身でアクセルからブレーキへ足を移動させるよりも速い時間で行われる。
 こうした使い方は特に、100km/h以下で流れが形成されているときにとても有効だ。実際の流れよりも少し上に速度設定をし、車間を最も短く設定して自分で運転する。すると流れに乗って上手く走れる上に、アクセルから足を離せば確実に減速モードに入る。
 ただ実はこれも問題があって、先日時速40-50km/hの流れの中で、レクサスの最新モデルLSで同じことを試したが、性能が良いからか、アクセルから足を離した途端に強烈な制動が行われてしまう。すると心配になるのは後ろのクルマがそうした動きに対応できるのか? ということ。なので結局途中からACCを切って自分で運転した。
 そう考えるとブレーキ制御に関しても、実際の流れの中ではもう少し何らかの対策を取らなければ実用的ではないように思える。また減速を行った後の再加速では、現状でACCの判断よりも人間の判断の方が優れている。実用性を飛躍的に高めるには、やはり車車間での通信が必要になってくるだろう。
名前こそアダプティブ・クルーズ・コントロールだが、現状ではまだアダプティブ(=適応型)とはいえないような気がする。だから僕はまだ現状ではACCをアシストとして使っている、ホントにタマにですが。

歩行者非優先

河口まなぶ

海外から帰ってきていつも感じるのは、日本の道路では歩行者優先という感覚が欠如していることだ。
 例えば交差点で左折するとき、横断歩道に歩行者がいても、それが自車のそばでなかったら多くのクルマは通過する。また信号機のない横断歩道で歩行者がクルマの流れが切れるのを待っていても、多くのクルマは止まらずに通過するし、逆に歩行者がいるからといって停止すると、後ろからクラクションを鳴らされることもある。
 TVドラマでは、道路をフラフラと横断する歩行者に対してクルマが突っ込んできて急ブレーキ後、「どこ見て歩ってんだ!」的セリフが必ずあるくらい。ホントどうでもいいことですが、歩行者非優先の感覚がそこには浸透しているように思える。
 いや歩行者非優先というよりも、自動車およびそのドライバーが歩行者よりもエラい…という感覚を持っているのでないかと思える。
 つまり日本の道路におけるヒエラルキーは、
自動車>バイク>自転車>歩行者のような感じになっているように思えるのだ。
 もっともこうした感覚は、スグに改まるものではないだろうと考えると、最近トヨタがこれから実証実験を行うと発表した「インフラ協調安全運転支援システム」は注目だ。
 これは光ビーコンや車両感知器を活用して道路状況などを把握し、運転手が信号無視など交通規則に違反したり、判断を誤った操作をして事故発生の危険性が高まると、光ビーコンなどが専用車載器と通信し、車両を自動制御して減速させるという。
 歩行者に対する意識をすぐには変えられないならクルマとインフラの側で対策もできる。
 今回の話とは直接的には関係ないが、こうしたシステムを使えばもっと、歩行者優先が実現されるように思う。例えば横断歩道に歩行者がいる時には、このシステムを使って自動車は進むことができない…という風に。
 もちろんそれ以前にドライバーの側で意識さえすれば、歩行者優先は守られるわけだが…。

パリにおける割り込みとクラクションの価値観

河口まなぶ

 ショーで訪れたパリで印象的だったのは、もう滅茶苦茶なほどに混雑した市内の道路だった。特に凱旋門の巨大なラウンド・アバウトは相当に無秩序。僕らの乗ったタクシーの横っ腹で急ブレーキをかけて止まる車がいたり(絶対にぶつかったと思えたほど)、強引な割り込みもしょっちゅう行われる。さらにクラクションはそこかしこで鳴りまくり…といった具合。ただ不思議なのは、それほど無秩序にもかかわらず、クルマを降りて喧嘩というような状況にはなっていないことだ。
 日本の場合、強引な割り込みやクラクションを鳴らすといざこざが起こる。その後煽られたり、中には車から降りてきて…といった具合。しかしパリではそうした光景には出くわさなかった。
 おそらく彼らにとっては、強引な割り込みも当然のことなのだろう。目の前に空いている場所があるからクルマを進める…そんな感覚なのだろうと思う。またクラクションを鳴らすことは自己主張として当然のことなのかもしれない。
やはりこの辺りの感覚も日本とは圧倒的に異なる。日本人は礼儀正しいから(?)か、割り込みやクラクションに関しては敏感だ。基本的には合流時では1台間隔という秩序があるし、クラクションもよほどのことがない限り鳴らさないのが普通だろう。
 だからパリの街中を走ると、日本人としては非常に滅茶苦茶だと思える。が、一方で何故こんなに滅茶苦茶で大丈夫なのだろうか? という疑問も覚える。
 それでも実際に大丈夫なのは、割り込む方も割り込まれる方にも、クラクションを鳴らす方も鳴らされる方にも、個人主義ならではの交通に対する感覚(我々にとって未知の)が備わっているのだろう。対して日本の交通に対する感覚は全体主義的という違いがあることは確かだ。
 ま、この話はオチがあるわけではないのだが、そうした感覚や特性といったものを織り込んで考えないことには、地域にあったITS構築というものもできない気がする。
 パリからの帰り、空港の搭乗口で待っていると、搭乗のアナウンスが流れた。するとみんなが一斉に搭乗口へ集まるわけだが、やはりここでも列を作るというより、四方八方から空いてるところも目がけて人が集中してきた。僕はおもわず凱旋門のラウンド・アバウトを思い出し、ニヤリとしたのだった。

アナログな車々間通信

河口まなぶ

 いまフランスに来ている。欧州に出張すると毎度思うが、やはりこちらの高速道路は至極走りやすい。今回はプジョーの新型207の試乗会で南仏のソレイズという場所にいるが、試乗ルート中の高速道路での走行はとても快適なものだった。
 今回走行した高速道路(=オートルート)は片側2車線で、実勢速度は追い越し車線が大体130-150km/h、走行車線が110-130km/hという感覚。日本の高速道路と比べると数割高速となるわけだが、決して速度が高いからでなく、そこを走るドライバーのモラルがしっかりしているから快適に走れたのだった。
 追い越し車線を比較的速いペースで走行したわけだが、そうして走行していると当然のように前走車に追いつくことになる。しかし日本の高速道路のように、いつまでたっても前走車が追い越し車線にとどまることがないどころか、追いついてくるこちらを確認した瞬間に追い越し車線を譲ってくれて走行車線に移るために、ほとんど減速すらする必要がないほどなのだ。
 それでも時には前走車に近づくこともあるが、そんな時に前走車のバックミラーを見ているとドライバーがこちらの存在に気づいてくれるのを、ミラー越しの目の動きで確認することができる。そしてこうしたドライバーはすぐに道を譲ってくれる。
 モラルが実にしっかりしているなぁと思う。自車よりも速いクルマが来た時には即座に譲るし、その逆もしかり…この感覚がほとんどのドライバーに備わっているのだ。
 日本の場合だと、気が付いているのに譲ってくれない場合も多い。さらにいえば少し詰まった状態では、自分の前を走るクルマがいるのだから自分も追い越し車線にとどまる…という感覚で、結局数珠つなぎとなり速度低下がおこるわけだ。
 欧州の高速道路でも当然ITSの普及はまだである。が、こうしたドライバーのモラルの高さによる交通のスムーズな流れは、まるで車々間での通信を行っているかのような効果すらあるように思える。そう、アナログ的なモラルの高さというものが、まだ実現せぬデジタルでの車々間通信に勝る関係を築いているのだ。別に前走車のドライバーとアイコンタクトをしているわけではないけれど、そうした感覚に近いモラルが欧州の高速道路にはある。
 もし日本の高速道路において、欧州のようなモラルが徹底されたならば、それこそITS以前の段階でもう少し走りやすい道路になるようにも思えるのだ。

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