コラム

首都高フォーラム

Part-2

 中央環状線山手トンネルの開通を記念した今回のシンポジウムだが、この中央環状線、外環自動車道、そして圏央道のいわゆる三環状の整備は、ここに来て急ピッチで進捗しており、用地取得などの問題は依然残すにしても、すでに議論の段階は越えたと言っていい。目下の話題である距離別料金への移行に関しても、周知徹底が遅れていることなど、細かな部分では依然として様々な問題はあるにせよ、全体の方向性としては、ようやくあるべきかたちになっただけとも言える。パネルディスカッションにて家田 仁氏は「これでようやくお膳立てが整ったというだけ。肝心なのはこれからだ」と強調されていたが、まったく同感だ。

 では、その大切な「これから」の問題とは何か。三環状の整備、距離別料金制への移行は、直近の効果として最大の懸案であった渋滞の緩和をもたらすだろう。しかし、首都高の抱える問題がそれですべてクリアになるわけではない。求められるのは、その首都高、そしてその周辺の道路を含めたモビリティを今後10年後、30年後、そして50年後へと、どう持続させていくのかという話ではないだろうか。

 まず考えなければならないのは、2008年秋に導入予定の距離別料金制が、果たして提示されている意見案のようなかたちで良いのかということだ。

 首都高は道路整備特別措置法に基づき、民営化から45年後の平成62年には無料開放されることになっている。それまでに首都高速道路保有機構に対するリース料5.8兆円に、利率を年間4%と見積もった利子を加えた計12.7兆円を完済しなければならないのだが、それは45年間の料金収入を15.9兆円と見積もり、管理費3.2兆円を差し引いた分で返済されるというのが首都高の見込みである。

 しかし償還計画を見ると、H18年の収入2631億円に対してH32年には収入3820億円、リース料3090億円となっている。つまり計画は1200億円もの増収が前提なのだ。首都高は新規路線の開通、距離別料金制移行による渋滞緩和、交通需要全体の増加によって利用台数、平均利用距離が伸びることで増収が可能だというが、それにしても現状のほぼ1.5倍である。“計画”としては、あまりに楽観的ではないかという懸念は当然生まれる。その上、仮に民意に押されて距離別料金の上限が1200円から引き下げられるようなことになれば、計画が達成できないのは明らかだ。

 もちろん料金設定は簡単なことではない。上限料金を下げれば収入が減るし、かと言って高すぎれば、首都高を避ける動きが逆に一般道の渋滞を誘発することもあり得る。とりわけ長距離輸送が多い大型車がこのような動きに向かわないような料金体系が求められるのは明らかだ。一方で下限料金も「せっかく乗ったんだし、もったいないから降りずに乗り続けよう」から、渋滞区間では一旦降りて、また次で乗り直すという気持ちにさせるものでなければならない。しかも、それに償還計画が密接に絡んでくる。首都高には、その辺りまで含めた周知が求められている。

 モビリティの持続可能性、今後更に50年持続できるロードインフラストラクチャーという観点で、そろそろ50年になり老朽化を迎える首都高の設備をどのように整備し延命させていくかという課題も提示された。今後、道路整備費用はますます高くなっていくだろうし、場所によっては建て直しが必要になるかもしれない。しかし渡口氏によれば現状は「管理費には普通に修繕するくらいの額は折り込んでいます。絆創膏を貼るくらい、でしょうか。骨折したときに本格的にそれを交換するだけのお金は入っていません」という。

 自動車文化、道路文化を欧米諸国より遅れて、しかも輸入して採り入れた日本には、道路が劣化するもので維持管理に費用がかかるという観念が薄い。昨今の道路特定財源に関する論議などを見ていても、それは自明だ。新規の道路建設をやめても、今ある道路を修繕、改良し維持していくためにはお金が必要なのだ。杉山氏が無料化反対という背景も、まさにそこにある。「仮に45年もったとして、その後料金が無料になれば、維持管理は現在の受益者負担ではなく、税金の投入ということになる。それでも本当にいいのか。」このことは本来もっとしっかり議論されなければならない。

 首都高自身も、このことに関しての態度を明らかにする必要がある。「45年で借入金を償還するのが最初のミッション」「決まっていることだから」「困っている」というだけでは回答としては物足りないと言わざるを得ない。当然、何も考えていないわけでは無いはずなのだから。

 家田氏の言にあったように、モビリティの次代への継承は我々の世代の責務である。近年騒がれている日本橋の景観問題も、あるいはそこに繋がる話かもしれない。渋滞、地球環境といった要素はもちろん、東京をはじめとする街の歴史、景観や美意識等々の上に立って、改めてモビリティのあり方を考えることが求められている。ネットワークの充実と新しい料金体系の導入は、あくまでスタート。今後、より積極的に議論していかなければならないはずだ。


○Part1

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