コラム

連載「クルマを被告席に座らせないために」
Vol.11 京都議定書発効から10周年

 今年で京都議定書発効からちょうど10年が経つ節目の年を迎える。京都議定書で決定された温暖化ガスの削減がどのように進捗しているのだろうか。日本は1990年比で6%、欧州は8%であるが、両国の取り組みの違いは明確になりつつある。日本ではすでに1990年比で8%以上も温暖化ガスが増加しており、このままでは14%以上も削減しなければならなくなる。実際、この数字は極めて困難であることは予想できる。

 そこで、昨年7月に開催された政府の地球温暖化対策推進本部の会合では京都メカニズム*の活用に関する基本方針を規定する「京都議定書目標達成計画の改定」が決定されたのである。

 そもそも京都メカニズムとは温暖化ガスの削減に最大限努力しても目標に及ばない差分(90年比排出量のマイナス1.6%分)については、その柔軟的な措置として京都メカニズムを応用することが規定されている。つまり、日本は達成できない分を排出取り引きなどで対応するというものだ。

 しかし、この決定は曖昧な部分も少なくない。「最大限の努力」とは「どんな努力」なのか分からないし、各界で真剣に取り組んでいるとも思えない節がある。

 京都議定書に忠実に本来の国内対策で1990年比で6%削減を強く実行する意志が重要であろう。欧州では京都議定書発効以来、一般市民に対して環境問題の重要性を分かりやすく、積極的に路取り組んできた。自動車技術ではディーゼルの普及と、バイオマス戦略が最近の話題となっている。

 京都メカニズムを使って議定書の運用を柔軟に利用したい政府はすでに排出権取引に積極的であり、途上国に協力することで大きなクレジットを得る動きが活発化してきている。詳しくは専門的なWEBサイトで調べてほしいが、日本と欧州の取り組みはあまりにも異なる点に留意したい。

 京都議定書を批准した欧州では「ポスト京都議定書」の動きを活発化させている。分かりやすく言うと欧州はさらに厳しい温暖化ガスの削減に取り組む構えなのである。こうした動向は日本の環境対策に大きな影響を与えるかもしれない。欧州委員会は最近エネルギー戦略文書により多くの削減目標を織り込んでいる。京都議定書ではEU(旧加盟国15カ国)は2012年までに温暖化ガスを1990年比で8%削減を決定していたが、この数値を20%と一層高い目標を定めるかもしれない。

 具体的な戦略として再生可能なエネルギーの比率を高める。2020年までに全エネルギーの20%を再生可能なエネルギーとする。具体的にはバイオマスや天然ガス、あるいは風力発電なども注目されている。

 2005年11月に誕生したドイツ・メルケル政権ではバイオ燃料の消費量を2010年までに5.75%と規定している。この値は欧州委員会が定めた目標値と一致している。

 最近の自動車産業で話題となるバイオマス燃料は様々な問題も含んでいる。行き過ぎるバイオマス政策は食料問題と関連してくるし、バイオマスはクルマの燃費はガソリンや軽油よりも悪い。エンジンのパワーが低下するから、ユーザーの燃料代の負担は増えることになる。

 ディーゼルやハイブリッド技術が盛んに研究開発されているものの、自動車の大型化や装備の拡充はクルマの重量を押し上げている。ユーザーが求める利便性や快適性と環境性能を両立することは、極めて困難なことだろう。こうした現状を受けてか、VWは1.4リッターの直噴ターボTSIをゴルフに搭載して販売し始めた。エンジンをダウンサイジングすることで、環境性能とクルマの魅力を両立させようと考えているのだ。

 こうした状況の中で日本の戦略が正しい選択となるかどうか、関係者は不安で見守っている。

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