コラム

連載「クルマを被告席に座らせないために」
Vol.9 BMWがこだわる水素エンジンとは

 何年か前のアメリカのデトロイトショーの出来事を思い出す。アメリカのメディアから「ハイブリッドは作らないのか」と尋ねられたBMWのボードメンバーは「我々はサラブレッドだからハイブリッドに興味はない」と自信ありげに答えていた。ところが最近はBMWもハイブリットを開発していることを公開し、近いうちにBMWが掲げる「駆け抜ける歓び」に満ちたハイブリッド車が登場するだろう。

さて、BMWは水素エネルギーの時代をどのように展望しているのだろうか。ご存じの方も多いかもしれないが、BMWは水素燃料電池自動車には興味を示さず同じ水素エネルギーを使うなら、現在のピストンエンジンの技術が利用できる水素エンジンにこだわっている。電気駆動で走る燃料電池自動車だろうが、ピストンで動く水素エンジンだろうが、クリーンで再生可能な水素エネルギーを使うということでは同じ意味だ。

BMWは水素エンジンの研究は古い。1979年より水素を用いた水素エンジンの乗用車を開発している。その研究が実り1999年にはミュンヘン国際空港で行われた世界初の公共水素供給ステーション・共同プロジェクトに参加しながら、水素エンジン自動車の実用化に大きなステップを踏み出した。

さらに、BMWはここ数年の間、世界各地で行われるモーターショーで水素エンジンを搭載したBMW7シリーズを公開している。水素エンジンとはガソリンや軽油の代わりに水素を燃やすエンジンのことである。燃料はエネルギー密度が高い液体水素が必要だと考え、超低温で液化する技術を研究している。水素を燃やすと、排気管からは僅かな窒素酸化物が発生するが、基本的には水が出てくる。しかし燃料には炭素成分が存在しないために二酸化炭素は一切排出されない。

それでは水素を燃やして得られるパワーはガソリンエンジンと比べるとどうなるのだろうか。実際のパフォーマンスは70~80%に低下するといわれている。これは水素が最も密度が低い物質であるからだ。その結果、熱カロリーが炭素よりも低い。それでも燃料電池自動車(電気駆動)よりも加速性能では優れているとBMWは自信がありげだ。さらに燃料電池と比べるとコストが安く、普及するのは水素エンジンのほうが先であると考えているのだ。

BMWは2004年のパリサロンで世界最速の水素エンジン自動車を発表した。まるで未来のレーシングカーのようなスタイルの「H2R」は232hpの最高出力を誇る。最高速は徹底的に空気抵抗を抑えたボディも貢献し300kmを記録している。この「H2R」に搭載された6リッターV型12気筒の水素エンジンは2007年秋に発表された7シリーズの「ハイドロジェン7」と同じだ。この新型車は、ガソリンでも液体水素でも走行できるーいわゆるバイ・フューエル(二種類の燃料)を採用している。水素スタンドがなくても通常のガソリンを補給すれば、普通のクルマと同じように走れる。ステアリングに設置された切り替えスイッチを押すことで水素燃料から従来のガソリン燃料へと、簡単に切り替えることができるわけだ。

水素は液体状態(-253度)で魔法瓶のようなタンクに貯蔵される。気になる航続距離は水素だけで200km、ガソリンを使うと480km。合わせて650Kmのロングドライブが可能。市販される「ハイドロジェン7」のパフォーマンスは0〜100km/h加速が9.5秒、最高速は230km/hに達するという。この数値は水素燃料の時に得られる値だ。

マツダもロータリーエンジンを使った水素エンジンをRX8で実用化すると発表している。国内ではすでに大臣認定を取得し、実際の道路で実証実験を行っている。マツダはロータリーエンジンと水素の相性は凄くよいと考えている。水素のおかげで燃費の悪いロータリーも21世紀に生き残れると期待している。

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