コラム

連載「クルマを被告席に座らせないために」
Vol.8 レクサスの先進安全技術を考察

 ちかごろ日本とドイツの高級車が積極的にプリクラッシュ技術の実用化を進めている。はたしてプリクラッシュという技術はどのくらい役に立つのか新型LS460に搭載された同技術を取りあげながら、この技術の有効性についてレポートすることにしよう。
 日本の自動車メーカーと国土交通省が共同で進めるASV(アドバンスド・セーフティ・ビークル)では、様々なハイテクを使った予防安全技術が進められているが、その中でも「プリクラッシュ・セーフティ」は、事故予防という観点で期待が大きい。衝突安全から始まった自動車安全技術は、ここで予防安全を強く推し進めることで、年間約100万件の事故と100万人の負傷者を減らすことができるとメーカーや行政は考えている。
 こうした取り組みは欧米でも進められているが、自動車メーカーの自主性を重んじる欧州では、まずメルセデスが「プリセーフ」、BMWが「ドライバー・アシスト」を開発している。すでにメルセデスはプリクラッシュを実用化させ、この分野ではリーダー的存在だ。本質的には前方認識可能なセンサーを使い、ドライバーを支援したり、時には自動的にブレーキを介入させる自動操縦的な機能を持たせている。
 この技術のコアとなるのは、ミリ波レーダーや小型カメラ、あるいは光学式レーザーなど人間の目の代わりをする技術だ。はたしてどこまで正確に認識できるか気になるところだ。さて、前方の障害物といっても遠いところと近いところでは、ミリ波レーダーの場合、使用する周波数を変える必要もあるし、画像認識でも経験がないと物体の意味がコンピューターには理解できない。人間の目と脳は極めて高度な認識が可能だが、これを機械で置き換えるわけだから、限界はあるはずだ。だが、少しでも人間の認識機能を補えれば、人間のミスを減らすことも可能となる。
 ミスをしたら補う技術から、ミスさせない技術にシフトしているのである。前方認識プリクラッシュ・セーフティは理解しやすい。例えば異常接近する障害物にたいしてドライバーがもし回避行動をしないなら、事故の可能性は高まる。そこで警報を鳴らしたり、時には自動ブレーキを介入させることでリスクを低減できる。この僅かな時間を使って何ができるのか。そこにプリクラッシュセーフティの真価が問われる。
 さて、新型レクサスLS460はすでに実用化しているプリクラッシュ・セーフティをさらに進化させた新しい技術が投入されている。注目できるのは世界初の「後方対応プリクラッシュセーフティシステム」。後ろからの追突事故は死亡率では低いものの「むち打ち」という厄介な外傷が被害者を苦しめる。このシステムは、リアバンパーに設置されたミリ波レーダーにより後方車両の接近を検知し、ハザードランプを点滅させることで、後続車に危険を喚起する。さらに接近するとフロントシートのヘッドレストを最適な位置まで動かすことで「むち打ち被害」を大幅に低減できる。
 もう一つユニークな技術は歩行者を検知し自動ブレーキを介入させる歩行者用の「プリクラッシュ・セーフティ」を実用したことだ。センサーだけで人間を正確に判定することはきわめて難しいが、レクサスの場合は「77GHzミリ波」と「ステレオカメラ」と「近赤外線」を使い歩行者を認識する。

 こうしたハイテクは「人間が技術に頼りすぎる」というリスクもあるが、ドライバーのストレスを取り除いたり、ドライバーが気がつかない領域を支援することで人間の安全運転能力を高めることが期待される。ドライバーである人間をどのように考えるのか?ハイテクと人間のインターフェースは?自動操縦の夜明けを感じさせる技術だけい、人間研究がもっとも重要になるだろう。

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