コラム LS600hが疾走する 第一弾
650馬力ではなく、650ボルトで駆動するハイブリッド・スーパーサルーンLS600hのスロットルを床が突き抜けるまで踏み込んだ。ドイツの商業の中心都市であるフランクフルトの高級ホテルを出発し、10分も走らないうちにアウトバーンE3号線を北上した。いつも通うニュルブルクリンクへ向かう主要路線だ。イースターで多くのドイツ人は休暇を楽しんでいる最中に、私は歴史に残る日本の高性能サルーンLS600hで最高速テストの真っ最中。日本ではスピードメーターを気にしながらストレスの多いドライブが日常だが、ここでは自己責任において速度を決められる。速度無制限の意味は「速度の自由化」自分の技量とクルマの性能と責任で決めるものなのだ。
速度無制限といっても多くの場所ではスピード規制があり、工事や渋滞も少なくない。その中でもE3号線は比較的飛ばせるアウトバーンだ。電気CVTのおかげで多段ギアがなく、加速感は静かなジェット機のようにスムースだ。公表される0-100Km/h加速データは5.5秒(日本仕様は多少ギア比が低い)、しかし実際の加速感は異次元の世界だ。静かで力強い。新星LS600hのパフォーマンスはこの言葉に尽きる。
速度無制限のドイツ・アウトバーンに来たからには、高速走行が苦手と言われるハイブリッドの最高速度に挑戦。といっても自主的に250Km/hでリミッターが作動する。日曜は大型トラックのアウトバーン乗り入れは禁止されているから、比較的走り易いが、それでも高速走行に不慣れなドイツ人が時折、追い越し車線に迷い込む。そんな時は、結構強いブレーキは必要となる。緊急回避もブレーキ性能も満足できる。バイワイヤーブレーキを使うが、リニアで扱いやすい。ドイツ車のブレーキが優れているのは、ブレーキこそ命綱だからだ。LS600hのステアリングを握り、クリアラップを狙ってスロットルを踏み続ける。250Km/hまではすぐに達する。そこからは少し時間がかかるがメーターは270Km/hで針は止まった。
ここでは簡単にLS600hの技術を見てみよう。搭載されるV8エンジンはLS460の4.6リッターではなく、あえて5リッターV8を選んだ。その理由はいくつか挙げられるが、LSシリーズの吉田チーフ・エンジニアに聞くと「5リッターは区切りが良いし、LS460との差別化が必要」分かりやすい理由を説明してくれる。しかし、その裏には、計算上はライバルの6リッターV12気筒以上のパフォーマンスを発揮するのが本当の狙いであったかもしれない。
5リッターV8は単体では394PS/6400rpm、520Nm/4000rpmというパワーとトルクを発生する。このエンジンは吸気側にVVT-iEを採用し、4.6リッターのV8と同じ塔内直噴とポート噴射を持っている。「VVT-iE」とは「Variable Valve Timing-Intelligent system by Electric motor」の略で、トヨタが採用する世界初の電動連続可変バルブタイミング機構だ。これだけでもメルセデスのS550(5.5リッターV8)と同じレベルのパフォーマンスを発揮する。余談だがこのエンジンは秋にはレクサスISのスポーツカーモデル「ISF」にヤマハのチューニングを受けて搭載され、400PS以上のパワーでデビューするかもしれない。レクサスISFのチーフ・エンジニアの矢口さんはあえて「IS500]と呼ばないところに意味があると述べている。なにやら怪しげな戦略が隠されていそうだが、このモデルはBMW・M3をライバルとしている。
参照:http://www.startyourengines.jp/blog/videoblog/2007/01/000260.php
さて、LS600hに搭載されるハイテクV8に組み合わされるモーターは224PS/300Nm。二種類のパワープラントを足し算するとなんと「618PS/820Nm」となってしまう。このスペックは6000万円もするマクラーレン・メルセデスSLRに近いスペックだ。2.3トンのボディにも関わらず、0-100Km/h加速は5.5秒。しかも、変速が一切なくシームレスに加速する。電気CVTのしなやかな加速感は、どんなスムースなエンジンとATでもできない芸当だ。実際、LS460と比べると分かりやすいが、はるかにトルクフルで、スムース。しかし、LS600hのハイブリッドシステムは電気的な分配器なので、パワープラントで作られるすべての出力がタイヤに伝わるわけではない。走行中に充電にも使われるので、実際の加速感では「500〜600PS、600〜700Nm」のエンジンと同じだろう。
気になる10〜15モード燃費は11〜12Km/Lなりそうだ。価格はアメリカで噂されている値段が11〜12万ドル。ベントレー・フライングスパ、メルセデスS550・4マチック、BMW760L、アウディA8ー4.2L、ジャガーXJRなどがライバルとなりそうだ。このレポートはまだまだ続く。動画を楽しみたい方は私の動画サイトをどうぞ。