コラム

2006年のデトロイトショーを振り返る

06年1月の開催されたデトロイト自動車ショーはハイブリットのゲームショーという様相であった。トヨタやホンダが仕掛けたハイブリッドカーが、メーカーの思惑以上にアメリカで人気がでたからだ。GMやフォードは90年代後半に起きたカリフォルニアの「ちょっとしたEVブーム」への投資の失敗が大きなトラウマとなっていた。「EVのような自動車・ハイブリッド」は、その言葉を聞いただけでも鳥肌が立つ思いをしたのかもしれない。

しかし、トヨタやホンダのハイブリッド戦略は思いもよらぬ追い風に吹かれた。01年9月におきた911テロは、その根っ子に存在する石油に依存してきた欲望へ反省する気運が生まれた。都市部で人気が高いハイブリッドユーザーは、ブッシュ政権を批判し、民主党のケリー候補を先の大統領選で推していた。

100Kgもあるような大きなアメリカ人が小さなプリウスに乗る姿は、ニューヨークやロスなどの都市部で目立つようになってきた。人目につかないところでは大きなSUVに乗っていようと、新しいライフスタイルを演じることができるハイブリッドは知的・富裕層の人気の的となったのだ。

アメリカの環境問題を担当するEPA(環境保護局)も積極的に燃費を公開し、燃費削減を訴える。EPAが毎年公開するランキングでは、ここ数年の間、トップ10にはトヨタとホンダのハイブリッドカーとVWのディーゼル車が占めていた。

いままで「やらない理屈」でハイブリッドを否定してきた欧米メーカーも、ハイブリッドの流れを無視できない状況に追い込まされていた。「我々はサラブレッドだからハイブリッドに興味はない」とまで言い切ったBMWでさえ、GMとダイムラー・クライスラーのハイブリッド・アライアンスの仲間入りした。環境問題に関してアメリカ人の心境は確実に変化していたのである。
 このままではアメリカで再び「ガソリンの大食い」の汚名を着せられ、オイルショックで苦しんだ80年代の悲劇が再び起きるかもしれない。そのことに気づいたフォードは前のCEOであったJ.ナッサー氏がハイブリッドの提携を模索した。GMも自社開発するよりも、ハイブリッド技術で先行するトヨタの協力を仰ぐほうが賢明と判断していた。GMとトヨタの環境技術に関する包括的な提携は、何度も報道されたが、具体的なビジネスにはつながなかった。欧米メーカーは日本メーカーのハイブリッドがここまで売れるとは予想していなかったのである。
 この市場の変化に対応するべく2004年にフォードはSUVエスケープのハイブリッドを日本のサプライヤーを使って開発した。バッテリーは三洋電機、ハイブリッドシステムはアイシンから購入した。しかもニューヨーク市のイエローキャブ(タクシー)にエスケープが導入され話題となった。フォードはさらに4筒と6気筒エンジンの自社製ハイブリッドを具体化する計画だ。新しいハイブリッドシステスを使って、2010年までに年間25万台のハイブリッド車を販売する予定だ。
 このような流れのなかで06年のデトロイトショーではGMは「ハイブリッドはアメリカでも主流になる」と発表していた。GMはすでに軍用ハイブリッドを生産しているが、本格的な乗用車はまだ実用化していない。このショーで発表されたハイブリッドはサターンの07年SUVモデル。このシステムはアイドルストップと回生ブレーキを中心にしたいわゆるマイルド・ハイブリッド・タイプだ。
 シティモードでガロン当たり27マイル(約11Km/L)、ハイウェイモードで32マイル(13Km/L)、つまり約20%燃費が向上することになる。コストは約2千ドル高いが、年間2.4万km走るユーザーならば、4年で取り返せる計算だ。
 大きなSUV用のフル・ハイブリッドは「Dual-Mode Hybrid」と呼ばれ、二つのモーター(一つは発電機用)を持つ。このシステムでは高速燃費を高めることが大きな課題で、あらゆる走行条件でも平均で2Km/L燃費を向上させることが可能とGMは述べている。こうしてGMでは2010年までに12車種のハイブリッドを実用化する予定だ。
 それでは日本メーカーはどんなハイブリッド戦略を発表したのだろうか。デトロイトではなかなか日本企業の本音が見えないが、レクサスLSのハイブリッド「LS600h」をニューヨーク・ショーで発表すると述べている。ホンダはデトロイトショーで毎年発表される05~06年度のカーオブザイヤーにシビックハイブリッドが選ばれ、トラック部門ではホンダのフルサイズトラック・リッジラインが選ばれた。一つのメーカーのダブルタイトルは初めての出来事だ。ハイブリッドとトラックSUVが選ばれるというのはいかにもアメリカらしい。
 デトロイトで会ったアウディUSAの社長はアウディのQ7ハイブリッドが08年までには間に合うと述べていた。このアーキテクチャーは、ポルシェカイエン、VWトアレグと共用される。サプライヤーはドイツの部品メーカーであるコンチネンタル社とZFからユニットが供給される。
 さて、ハイブリッドに沸くデトロイトショーであったが、ダイムラークライスラー社は、メルセデスのGLクラスに世界で最もクリーンなディーゼルを06年秋から全米で販売すると発表した。08年以降さらに厳しくなる排気ガス規制にも対応できる尿素触媒を持つ「ブルーテック・ディーゼル」は、乗用車では世界で初めての実用化だ。
 すでに販売しているEクラスのディーゼルもGLと同じ3リッターV6の第三世代のブルーテック・ディーゼルに切り替わる。GLはハイウェイモードでガロン当たり26マイル(11Km/L)の燃費を可能とする。ハイブリッドとほぼ同じ燃費であるが、トルクは500Nmを超えている。クライスラー部門ではこのディーゼルエンジンをグランドチェロキーにも搭載する計画だ。
 
 結局2010年頃までに欧米メーカーはグローバルに通用するハイブリッドとディーゼルを実用化することになる。高速燃費に優れたハイブリッド、クリーンなディーゼルなど、いままでにない新しい価値を提供することになるだおう。そしてメルセデスはディーゼルとハイブリッドを組み合わせた究極のパワープラントの開発も視野に入れている。

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