コラム

JNCAP公開試験レポート

カーテンエアバックの効果を検証するポール側面衝突試験

日本における自動車アセスメント(JNCAP)の試験施設。茨城県つくば市にある財団法人日本自動車研究所において、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が主催する、2006JNCAPの衝突試験が、2月1日(木)と2日(金)の両日に渡って公開されました。公開されたのは、一日目がJNCAPレギュラーテストとしての「フルラップ前面衝突試験」の模様。二日目は、カーテンエアバックの効果を検証するデモストレーションテスト「ポール側面衝突」の模様です。ここで注目される試験車は、いずれの試験も欧州で評価の高い、スズキの小型車(SX4)でした。

「ポール側面衝突試験」については、現在の日本では調査研究の段階にあるものの、ユーロNCAPでは、すでに2005年よりカーテンエアバック装備車を中心に採用されている、かなり厳しい内容の衝突試験のようです。そこで、ここでは日本初公開となった「ポール側面衝突試験」の模様と、そこで立証されたカーテンエアバッグの効果について、レポートします。

その前にクルマに詳しい諸君なら、すでにご存知ですが、日本の衝突テストの歴史についてお浚いをしておきましょう。JNCAPは、欧米の例に倣って1996年、当時の運輸省の委託をうけた現在のNASVAの手によって開始。当初は試験車もわずか6車種、試験内容も「フルラップ前面衝突」と「ブレーキ性能テスト」だけという寂しい状況からスタートしたものですが、1999年から「側面衝突試験」が、2000年から「オフセット前面衝突試験」が追加され、この時点で評価方法も現在の「★の数6段階」に統一されたのです。さらに2001年からは、世界に先駆けて「チャイルドシートに関する衝突安全性や使用性の試験」が、2003年からは「歩行者頭部保護性能試験」まで実施されるようになったのです。

このような道のりを経て、2006年には21車種を評価するまでに成長し、今やJNCAPは世界で最も厳しいアセスメントと言われるまでになったのです。そのお陰で国産車の安全性も乗員保護性能を中心に大きく進歩し、交通事故なよる死者数の大幅減少に貢献しているところです。

それでは、「ポール側面衝突試験」の概要を説明します。まず運転席に座るのは、ユーロNCAPでも採用されている「ESⅡ」というポール側面衝突を目的として開発されたダミー。これには、衝突時に頭部や胸部にかかる傷害値を計測するセンサーをはじめ、後でダミーの挙動が確認できるよう試験車の車内と車外に6台の高速度カメラを設置。それらの装置を搭載した試験車が試験用台車に乗せられ、時速29Kmで前方にある衝突バリアに固定したポールに側面衝突させるというものです。

なお、台車上には、テフロンシートが敷き詰められており、衝突時に台車上と試験車のタイヤ面に発生する摩擦を少なくするという念の入れようです。それ以外にも衝突試験には、ダミーの保温やシートポジション、ポールと試験車との位置関係など、じつに様々な要件が求められるのです。

テスト1:「カーテンエアバックが作動しなかった場合」
 本来ならスズキSX4には、カーテンエアバックが標準装備されているのですが、この試験はあくまでデモストレーションのため、あえてバッテリーケーブルを外し、電源をカットし、非作動としているのです。衝突の瞬間!大音響とともに試験車がポールに衝突し、右サイドが大きく壊れ、ルーフが折れ曲がり、ウインドウガラスが飛び散りました。わずか時速29Kmにもかかわらず、ポール側面衝突のすさまじさが伺えました。さらに高速度カメラの映像を確認すると、ダミーの頭部が激しくポールにヒットし、致命的な傷害を追っていることが推測されます。



テスト2:「カーテンエアバックが作動した場合」 同じく衝突の瞬間!見た目には、最初の試験車とまったく同じような挙動を示し、激突したポールに押し戻されていました。唯一前車と異なるのは、カーテンエアバックの存在。高速度カメラの映像を確認すると、試験車がポールに衝突した瞬間、すでにカーテンエアバックが全開しており、それによってダミーは、直接ポールにヒットすることなく護られていました。



テスト結果:試験後に発表された試験データによると、ダミーが衝突時に受ける頭部傷害値をHIC(Head Injury Criteria)という単位で表しています。一般的にはHICが3,000を超えると即死に値するといわれているのですが、テスト1のダミーのHICは「なんと、8,611」にもなったのです。

それに比べテスト2のダミーのHICは、「わずか、134」でした。この結果からもカーテンエアバックの存在が乗員の生命を天と地歩と分けることが立証されたのです。

カーテンエアバックを採用している国産車は、94車種にのぼるものの、装着率となるとまだまだ少ない3.4%。カーテンエアバックの目的は、衝突の瞬間!サイトウインドウ上部の運転席から後席にかけて瞬時に展開し、電柱や立ち木などへの側面衝突や車高の高い車との出会い頭事故による頭部障害の軽減に効果があるとされている効果絶大の代物なのです。

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